計算と結晶の情報Information
ここでは、回折強度に影響を与える各種の因子や計算に必要な数式について説明します。 また計算に用いる物質の結晶構造や計算手順についても記述しています。
X線回折の積分強度
多結晶粉末試料からのX線回折の強度(I)は、下式により計算することができます。
ここで求めたいのは相対強度比であることから、入射X線強度などの定数を考える必要はなく、 重要な因子は以下の因子となります。これらの因子と計算式については、以下に説明します。
・ローレンツ偏光因子
・温度因子(デバイ・ワラー因子)
・多重度因子
・結晶構造因子
格子面間隔と格子定数の関係
ある任意の格子面間隔dは、計算によって求めることができます。例えば、立方晶(cubic)で 格子定数aの場合、反射指数hklを用いることで、式(2)より求めることができます。
消滅則
消滅則とは、原子の配置によって回折するX線の波の位相がずれて打ち消しあって強度が消滅する 現象のことです。図の左側の単純格子場合、上下の格子から反射した波は強め合うようになり、合成波として 強度が二倍になります。しかし、図の右側の格子のように上下の間に一つ格子が増えた底心格子の 場合では、波を打ち消すように位相がちょうど半分ずれた位置にあり、合成波の強度はゼロになります。 つまり、X線の反射が消滅します。
ローレンツ偏光因子
偏光因子は、X線が回折する際に、反射面に垂直な偏向成分が平行な偏向成分よりも
強く減衰する効果のことです。ローレンツ因子は、反射が出現する角度にはある程度幅があり、
ブラッグの法則を正確に満足する角度で最大になり、その前後でも強度は観察されます。
そのため、ある有限の大きさをもった体積からの散乱強度の積分値を測定していることに
なります。測定する結晶面によって異なった散乱角2θとなるため、異なる結晶面からの
散乱強度を比較する場合には補正する必要があります。
通常、 ローレンツ因子と偏光因子は組み合わせて取り扱うことが多く、下式にて与えら
れます。
多重度因子
多重度因子とは、面間隔が同じでかつ同じ構造因子を示すが、方位が異なる結晶面の数 を表しています。たとえば、立方晶の{100}の多重度因子は、(100), (010), (001), (-100), (0-10), (00-1)の6であり、 {111}の場合は8になります 。ブラッグの回折条件を満足する 粉末試料中の結晶粒子の個数の違いを補正するものです。
結晶構造因子
結晶構造因子Fは、原子散乱因子f、温度因子T、反射指数と原子の座標の情報を 含む因子になります。
原子散乱因子
X線は、原子に含まれる電子によって散乱されます。ここで、原子散乱因子とは、 原子(電子)がX線を散乱させる能力で、原子に含まれる電子の数が多いつまり原子番号が 大きくなるほどこの散乱能も大きくなります。 原子散乱因子は、以下の式により近似され、a1, b1,a2, b2, a3, b3, a4, b4, cの値は、 International Tables for Crystallography Cにすべての元素分が記載されています。
各元素の散乱能をみると、原子番号が大きいほど、散乱能が強く、sinθ/λ(ここでは 2θと考える)が大きくなるに従い、散乱能が低下していることがわかります。 回折パターンにおいて、低角度領域で回折強度が強く、高角度ほど弱くなる主な原因は、このためです。
温度因子
原子が規則正しく配列している結晶においても、特定の位置に停止しているのでは ありません。熱振動により平均位置を中心として変位しており、室温では数%程度、 絶対零度においても完全に停止はしないと言われています。この熱振動の効果によって、 一つの原子によるX線の散乱振幅は減衰します。強度計算において、この熱振動に伴う効果 を考慮したものが、温度因子(デバイ・ワラー因子)で、下式のように原子散乱因子fと 組み合わせて補正を行います。
式中のBは、等方性原子変位パラメーターと呼ばれており、熱振動を球体として考え ているモデルになり、回転楕円体として考える非等方性原子変位パラメーターもあります。
計算に用いる結晶構造と計算手順
今回の計算では、面心立方格子のNiOを用いて、以下の手順で計算を行います。