(町田研究室)
熊本大学 工学部 物質生命科学科
本研究室では希薄NOxを効率的に吸着除去する材料を数多く開発してきた。その中でもMnOx-CeO2系複合酸化物は150℃以下の比較的低温で使用可能な吸着材料である。左上図のように、この材料はNOを酸化する能力と吸着する能力を兼ね備えており、効果的に希薄なNOxを取り除くことができる。
この酸化物と水素活性化に有効なPd触媒を組合せた新しい触媒を開発した(右上)。多量のNOxをMnOx-CeO2表面に蓄積し、時々水素を導入するとNOxが一挙にN2へと還元できる。反応温度は150℃以下と低く、低濃度NOxの定温における浄化に利用できる。
なぜこのような反応が起こるのか−−スピルオーバー(spillover)現象
われわれはPd上で解離吸着した水素は、MnOx-CeO2表面上へと「ころがり出て(spillover)」そこに吸着しているNOxを還元してしまう(下図)ことを発見。スピルオーバーする水素はPd上への飽和吸着量より300倍も多いので、多量のNOxを一度に還元できる。この触媒は、スピルオーバーを有効利用した初めてのNOx浄化触媒である。
NOxを吸ってN2を吐く層状化合物排ガス中に含まれる希薄窒素酸化物NOxと特異的に反応し、高速に吸蔵する多くの無機固体材料を開発した。特に、層状銅系酸化物へのNOxインターカレーション反応を独自に発見するとともに、デインターカレーション過程では層間NOxが一挙に分解・放出される現象を見い出し、層間反応によNOx浄化法を提案した。本反応を吸着状態、気相固相反応、結晶構造変化に着目して解析し、反応機構を解明するとともに、化学組成・結晶構造との相関を明らかにした。さらに、温度スウィングによって本反応を動的に繰り返す全く新しいNOx分離浄化プロセスを実現した。本研究の結果に基づいて、インターカレーションの物質変換法としての展開を指向した研究を進めている。
層状化合物以外にも、蛍石型構造を基本としたNOx吸着材料を開発し、触媒機能との複合化による低温NOx除去および浄化法の開発も進めている。
ナノスケールの複合体をデザイン 新しい光触媒材料への応用を目的として、チタン酸塩、タンタル酸塩、バナジン酸塩などの層状複合酸化物半導体の層間架橋によるナノ・メソ多孔体の合成に挑戦している。層間架橋とは、層状ホストの層と層との隙間に異なる半導体微粒子の支柱を形成させ、細孔構造とともに局所的なヘテロ接点を構築する有効な手法である。層の組成と支柱の組み合わせで極めて多様な組み合わせが可能で、高い光触媒作用の発現が期待できる。
関連発表論文
実際の電子顕微鏡写真の一例を下に示す。始めはまっすぐの柱状結晶(左)だが、層間にヘキシルアミンを導入するとくねくねと曲がった結晶へと変化し(中央)、最後には結晶全体にスリット状の隙間が生じた(右)。層と層との間に酸化物の支柱が形成したことを示している。得られた多孔体(右)は光触媒として優れた性能を示した。
水の光触媒的分解による水素製造は、究極のクリーンエネルギープロセスとして注目されているが、可視光応答性を持つ触媒は未だ開発されていない。申請者らは最近、希土類元素(Ln)を含む層状タンタル酸塩や層状チタン酸塩の光触媒特性が、Lnに強く依存する現象を発見した。電子構造に関する理論・実験両面からの解析より、部分占有Ln4fバンドのエネルギー準位および他の構成元素の原子軌道との混成が重要な因子であることを明らかにしている。 関連発表論文
種々の層状酸化物はその層と層との隙間(層間)のイオンを交換したり、他の物質を取り込んだりする機能をもっている(インターカレーション)。例えば左の図は水を分解する光触媒、層状タンタル酸塩の層間に塩化銅を挿入した複合体の合成を示している。層間に多様な物質を挿入することによって物性が大きく変化し、電気的、光学的、化学的機能性が発現する。 この他、Cuを含む酸化物高温超伝導体の中でも最も二次元的性質が強いBi系化合物の層間にヨウ化リチウムやヨウ化銅がインターカレートされる新たな現象を発見した。インターカレーションに伴う結晶構造や電子状態の変化を追跡するとともに、超伝導特性の制御を調べている。また、212型層状銅酸化物において、層間にインターカレートした酸素が電気伝導性に及ぼす影響を、欠陥反応式に基づいて定量的に評価している。 関連発表論文
均一なメソ孔と1000m2/gを超える高表面積を有するメソポーラスアルミナの合成法を確立しつつある。均一沈殿法によって生じる無機クラスターと界面活性剤分子との規則的な集合体が、層状構造を経由してヘキサゴナル化することを独自に発見した。脱有機成分によって得られる試料の結晶構造・細孔構造を解析した。また、同じプロセスを金属酸化物系に広く拡張し、新しいメソ多孔体の開発を進めている。これまで酸化ガリウム、希土類酸化物など非シリカ系メソポーラスマテリアルの合成に成功している。また、脱有機成分にテンプレート交換法を適応して従来にない新しいメソ構造体の合成法に先鞭をつけた。 関連発表論文
イオンを注入して触媒をつくる
イオン注入技術を利用した無機材料の表面改質による高機能化を試みた。Pt、Rhなど担持貴金属の触媒活性がO+、N+照射によって飛躍的に向上することを明らかにし、その原因を微細構造、結晶構造、表面電子状態を基に検討した。また、アルミナ、シリカ、チタニアなど金属酸化物微粒子表面にSi+、B+などのイオンビームを照射し、微細構造および結晶構造に与える影響を調べた。この他、耐熱性合金表面をイオンビームアシスト製膜法によって処理し、耐熱耐酸化性を改善する手法を検討した。
触媒燃焼とは
1000℃をはるかに超える高温で使用可能な耐熱性微粒子材料、層状アルミネートを独自に開発し、全く新しい着想のもとに高温固体触媒の材料設計法および微粒子調製法を開拓した。層状構造からなる格子中に遷移金属を置換固溶し、その酸化還元による触媒作用の発現に成功した。また、ゾルゲル法を応用して前駆体中の構成金属成分の混合度を分子レベルまで高めることによって固相反応をきわめて速やかに進行させ、均質な耐熱性微粒子を合成した。本触媒をセラミックガスタービンなどの次世代型高温燃焼プロセスに導入し、NOx発生量の低減と高効率化を同時に達成できることを実証した。
本材料は、実用性を兼ね備えた初めての高温燃焼触媒材料として研究開発の主流になっており、国内外、特に欧米の研究者の追試が盛んに行われている。 XRD, HREM, SIMS等を駆使し、結晶化学に基づいた解析により、層状アルミネート微粒子の熱安定性および触媒作用の発現機構を明らかにした。まず、微粒子が、層状構造を反映した薄板状のモルフォロジーから構成されること、および層に沿った粒子成長の異方性を見い出した。酸素イオン自己拡散の異方性を調べ、層間が物質移動経路となる粒子成長機構を解明した。また、単結晶試料の酸化還元に伴う酸素欠陥構造の変化を追跡するという、従来にはないX線単結晶構造解析の利用法に挑戦し、層間酸素が優先的可逆サイトであることを実証した。以上の結果をもとに、層状アルミネートの機能性と結晶構造との相関を体系化した。
ヘキサアルミネートの結晶化学
ヘキサアルミネートは薄板状微結晶から構成されている。この「薄板」の底面に平行に層状構造が成長する(左図)。層と層との間隔は約1nm(十億分の1m)。このような「薄板」は「球」に比べて大きい比表面積を維持するには有効な形状である。
なぜ、この「薄板」になるかというと層と層との隙間(写真では横縞に見える)が構成イオンの拡散経路になりやすいからである。この隙間を通ってイオンは粒子表面へと運ばれる結果、底面に沿って粒子成長する。