熊本大学 産業ナノマテリアル研究所 工学部 材料・応用化学科/大学院自然科学教育部 材料・応用化学専攻 無機材料

伊田研究室を志望される方へ

高校生向けナノ材料を用いて持続可能な社会の実現を目指す。

酸化グラフェンを使った海水の淡水化

脱塩膜を用いた海水の淡水化は、地球温暖化による水不足に対し、有効な解決策の1つです。水を通し、金属イオンなどの不純物を除去するプロセスは従来、空孔サイズによって行われてきましたが、私たちは酸化グラフェンという材料で作製する膜表面の官能基や層間隔(空孔サイズ)を制御し、より水選択性の良い脱塩膜の開発・研究を行なっています。特に身の回りに多く存在し、体を構築する元素の1つである炭素を材料として用いることで、低コストに製造できるほか、環境汚染問題の解決にもつながります。今後、安全性や温暖化といった問題を抱える世界にとって、きれいな水の確保と環境に優しい材料を使用することは2面から期待される研究なのです。

酸化グラフェンを使った電気二重層キャパシタの開発

私は、主に「パワフルなコンデンサのようなもの」を作っています。材料として、黒鉛を原料としてできる、酸化グラフェンというまだ比較的新しいものを使います。しかしながら、現在電子デバイスに利用されているコンデンサに比べて、私が作っているものは寿命が短いというデメリットがあります。これは、パワフルにするために必要な電解溶液というものがデバイスを傷めてしまうからです。そこで私は、電解溶液に注目し、デバイスを傷めずパワフルにする方法を日々研究しています。私が作製しているデバイスは、電気二重層キャパシタと言い、電池に似ていますが原理が大きく異なります。最大の違いは、充放電時に化学反応を行わず、溶液中の電解質イオンの移動による分極で電気の偏りを生じさせる、という点です。気になった方はぜひ調べてみてください!

ナノシートの抗菌剤への利用

ナノ粒子は1-100nmの大きさの粒子です。銀のナノ粒子は高い抗菌性をもち、抗菌性のコーティングとして多くの繊維やキーボードなどに利用されています。ナノシートは厚さ数nmのシート状の材料であり、比表面積が大きいため反応性が高いです。また、他の種類のナノシートと重ね合わせることができるため、様々な性質を示すことが期待されています。そこで、銀のナノシートを作製し、他の種類のナノシートと組み合わせることで、より高い抗菌性を示す材料の作製や、様々な分野への応用を目的として研究を行っています。

“ナノ”から高機能膜をつくる

“紙”のような構造を持ったナノシートは“重ねる”ことで、ピンセットでつまめるほどの強度をもった膜を作ることができます。つまり、ナノメートルサイズの小さな構造体から丈夫な膜を生成できるのです。作製方法は非常に簡単で、ナノシートの分散液を回転するSiウエハー上に滴下するだけで、数百層のナノシートが重なった膜を得ます(スピンコート法)。Siウエハー上に塗布したナノシート膜は、電解質水溶液中に浸すことでウエハーより分離します。このような、支持基板を必要としないナノシート膜(自立膜)は、ナノシートの層間を利用した水精製用のイオン分離/透過膜や、燃料電池向けのプロトン交換膜としての応用が期待されています。

ナノシートを使ったリチウムイオン電池の開発

本研究室は、光触媒・分離膜などに関する研究だけではなく、熊本大学で唯一リチウムイオン電池(LIB)材料について研究しています(2021年1月現在)。近年、日本で「脱炭素社会」実現に向け、温室効果ガス排出の削減戦略に電池の開発が期待されています。現在LIB負極として一般的にグラファイトが用いられておりますが、今後電気自動車等の広い分野で応用するために、グラファイトよりも多くの電気を貯めることのできる材料開発が求められています。この課題に応えるため、新規負極材料として高比表面で高い電子伝導性を示す金属窒化物ナノシートや酸化グラフェンを用いてLIBを作製し、XRD測定やXPS測定などの分析技術を駆使して電池内の充放電機構の解明を遂行しています。

炭素のみから作る蓄電デバイスの開発

皆さんが普段使われている鉛筆の芯の原料であるグラファイトから作成される酸化グラフェン(GO)は電子絶縁性です。一方、GOを還元してできた還元酸化グラフェン(rGO)は高い電子伝導性と高比表面積を有します。その特徴を利用したスーパーキャパシタ(電気二重層キャパシタ)は、電気二重層の形成により繰り返し蓄電・放電できるデバイスである。化学反応から電荷を得るリチウムイオン電池等の二次電池に対し、スーパーキャパシタは電極活物質の化学反応を伴うことなく電極表面の電解質イオンの静電的な電荷分離(分極)により充放電を行うため高速な充放電が可能であり、かつ電極劣化が少なくデバイスの寿命が長いことがあげられます。電極と電解質の両方の性質を持つ全固体オールカーボンキャパシタ(GOSC)への応用、性能向上を目指した実験をしています。

燃料電池のための白金フリー触媒の開発

我々の生活には化石燃料が必要不可欠ですが、化石燃料には枯渇の恐れや温室効果ガスの排出などの問題があります。そこで水素がクリーンなエネルギー源として注目されており、水素社会の実現が期待されています。水素を利用した発電方法として燃料電池が挙げられ、現在自動車にも搭載されていますが、カソード触媒として白金が多く使用されており、非常に高価であるという欠点があります。そのため白金代替触媒の開発が急がれています。そこで私は酸化グラフェンと鉄フタロシアニンという有機金属錯体の複合体を触媒として研究しています。この研究により燃料電池の低コスト化、水素社会の実現に貢献できる可能性があります。

化粧品開発に向けた酸化チタンナノシートの高すぎる触媒性能の制御

身近で使われている化粧品や紫外線をカットするものは、酸化チタンといわれる半導体が材料となっています。酸化チタンは、安価であり、化学的に安定で環境へも優しい材料です。これから得られる酸化チタンのナノシートと呼ばれるものは、特に高い紫外線吸収を示すことから、さらに応用が期待されています。しかし、同時に、その活性が高すぎるがゆえに、肌へのダメージや有機バインダーの分解といった弊害が起こります。そこで私は、この酸化チタンの活性を「抑制」する研究を行っています。鉄やニッケルなどの遷移金属を少し加えることで、活性を抑えることができるのです。研究が進めば、付加価値が高くかつ弊害の少ない素晴らしい商品の材料として作製した酸化チタンが使われるようになるかもしれません。

ナノシートから可視光応答する光触媒の開発

私は、可視光応答型の水分解光触媒の開発を行っています。最近化学の分野で注目を浴びている光触媒として、太陽光を利用して水を水素と酸素に分解するエネルギー変換型光触媒があります。現在、水素は、メタンより製造していますが、この方法では製造過程で二酸化炭素が生じてしまいます。一方、水分解による水素製造では、二酸化炭素を発生しないため、環境問題の解決にも役立つことが期待されます。太陽光と地球に半無限的に存在する水を用いて水素のような高エネルギー物質を生み出すことはエネルギーの分野において、究極理想であるといえるのです。また、地表に降り注ぐ太陽光はその約半分が可視光の光であるため、商品化に向けては、可視光下で光触媒活性を示すものが望ましいのです。このような半導体の研究は盛んであり、ゆくゆくは、燃料電池と組み合わせて究極のエネルギーサイクルを作り上げることができるかもしれません。

ナノシートから高効率な光触媒の開発

ナノシートは厚さ数nm、幅数µmの二次元ナノ構造体で、層状化合物を化学的に単相で剥離し得られ、二次元薄膜であること、電気的特性や磁気的特性、高表面積などの特徴を持つ新規材料です。本研究では水素化活性をもつ代表的な金属Pdをナノシートの結晶内部にドープすることにより、効率的な水素化触媒を開発することを試みました。二次元構造をもつナノシートにドープされた場合、ドーパントは表面近傍に存在するため、単原子で反応に関与できると考えられます。この触媒活性を高めることで、再生可能エネルギーから製造した水素を化学変換し安全に輸送、貯蔵することが可能になり、二酸化炭素を発生する化石燃料に頼らない水素社会の実現に近づきます。

水素貯蔵可能なニッケルナノシートの開発

多くの金属の中でもニッケルは、リチウムやアンモニア等といった他の材料と比較して高い体積水素貯蔵密度を有しています。ニッケルは水と反応した場合に水素を放出しますが、通常この反応は進行しません。そこで、私はニッケルをナノシート化する事により、自然にこの反応を進行できないかと考えました。ニッケルナノシートは他の材料と比較して水との反応時に高い発熱反応を示さないと予測されるため、この材料の合成が成功すれば、安全且つ瞬時に水素を供給可能な水素貯蔵媒体としての利用が期待できます。

高性能エネルギーデバイスのためのヒドリドイオン伝導の研究

情報機器端末の普及や持続可能なエネルギー社会の実現に向け高性能エネルギーデバイスの研究が盛んに行われています。これまでにLi+やNa+などを利用した電池の開発が行われてきましたが、私は新たなキャリアとして高速イオン導電に適した特徴を持ち次世代のエネルギーデバイスに利用できる可能性を秘めているヒドリドイオン(H-)に注目し研究を進めています。主に用いている材料はRh-dopedTiO2と呼ばれる物質で最近の研究でこの物質は水素を用いると表面にヒドリド種(Rh-H)を形成することがわかりました。現在はこのヒドリドイオンの伝導の実現に向けて日々研究を行っています。

窒素を組み込むことで光触媒への可視光応答性の付与

現代社会では化石燃料に大きく依存しており、それに代わる新燃料として水素を利用できないかと考えました。水素は燃やしても水しか生成しないためCO₂の排出がないクリーンな燃料であり、水分解によって水素生成が可能であれば循環的に燃料を作ることができます。したがって、私は太陽光を用いて水分解できる触媒の研究を行っており、具体的には白色サンプルをアンモニア雰囲気下で焼成することで橙黄色のサンプルを作り、光を吸収できる範囲を拡大させる他、サンプルをナノシートにすることで光が当たる面積を増大させ、反応性を高める研究をしています。今後、より効率的に水分解することができれば化石燃料に代わる新たな燃料として水素が使われる日が来るかもしれません。

ナノシートを使った大気汚染物質の除去

主に石油化学工業、輸送活動などから排出される揮発性有機化合物(VOCs)は重大な健康被害を引き起こすことから排出量を抑制する必要があります。VOCsの除去法としては、特に酸化マンガン系材料を用いた触媒燃焼が非常に有望であることが多くの研究で実証されています。(触媒とは反応の前後でそれ自身は変化せず、反応を促進させるものです。)しかし、その触媒活性はいまだ実用化には遠く、さらなる活性の向上が求められています。ナノシートとは、厚さは分子一個分(1 nm程度)、横サイズは数µmで、構成原子のほぼすべてが表面に位置しており、非常に高い比表面積を有する特異な構造をした物質です。こうした特性からナノシートは触媒としてこれまでの材料にない触媒活性が見られると期待できますが、ナノシートを用いたVOCs分解触媒についての報告例はありません。そこで私は、酸化マンガンナノシートを触媒として用いることでVOCs分解の低温化を目指し、日々研究に取り組んでいます。