熊本大学 産業ナノマテリアル研究所 工学部 材料・応用化学科/大学院自然科学教育部 材料・応用化学専攻 無機材料

研究

新規Bi3+置換型発光ナノシートの開発

Chem. Mater. 2023, in press.
Aurivillius型層状ペロブスカイト(Bi2An-1BnO3n+3)を剥離すると、Aサイトに微量のBi3+が置換したナノシートを作製することができます。このナノシートに紫外光を照射すると、バンドギャップ吸収に伴うエネルギーがBi3+サイトに移動し、青~緑色の光を放出します。Bi3+置換型ナノシートの発光特性は、ナノシート周囲のイオン濃度や湿度、温度等に応じて敏感に変化するため、多機能薄膜センサーとして応用できる可能性があります。本研究では、Aurivillius型層状ペロブスカイトBi2ATa2O9(A = Ca, Sr, Bi0.5Na0.5)を剥離して得たBi3+置換型ATa2O72-ナノシートより自立膜を作製し、膜の曲率半径に対する発光波長の変化を報告しました。

新たな可視光応答光触媒の開発

J. Phys. Chem. C 2023, 127, 2901.
光触媒はクリーンな水素生成法として期待されています。しかし、太陽エネルギーのほとんどを占める可視光をうまく利用できておらず、研究開発が進められています。その中で私たちは、層状窒化塩化ジルコニウム(β-ZrNCl)のバンド構造の詳細を調べ、可視光応答光触媒として有用であることを突き止めました。金属-窒素-塩素の組み合わせによる光触媒の報告は初めてであり、可視光応答光触媒の発展に貢献できます。

 

酸窒化物ナノシートの開発

Chem. Mater. 2021, 33, 6068.
層状体の剥離により作製される酸窒化物ナノシートは、可視光応答光触媒、電極触媒、固体電解質などへ応用可能であるから注目されています。しかし、安定な層状体の作製が難しいなどの課題のため、実現されていませんでした。本研究では、Ruddlesden-Popper型層状ペロブスカイトであるNa2Ca2Ta3O9Nを完全剥離して、酸窒化物ナノシートの作製に成功しました。適切な助触媒を担持した本酸窒化物ナノシートの積層体は、可視光下での水の完全分解を可能とする光触媒として作動することを示しました。また、作製したナノシートを高配向に積み上げることで、透明で高い機械的強度、柔軟性を有する自立膜の作製にも成功しました。この自立膜は、10-3 – 10-4 S/cmという高いプロトン伝導性を示し、燃料電池の固体電解質として使用できることを見出しました。

単一の酸素官能基を持つ酸化グラフェンの開発

Bull. Chem. Soc. Jpn. 2021, 94, 2195.
酸化グラフェンは単層で水に高分散し、尚且つユニークな特性を示すことから、実用性が高いナノシートとして世界中で研究が進められています。しかし、酸化グラフェンは多種多様な酸素官能基と空孔が無秩序にシート内に分散した複雑な構造を持ち、機能の再現やメカニズムの探索、緻密な設計が難しいという課題がありました。そこで我々は、Brodie法により酸化した酸化グラファイトの剥離により、これまでのものより均一な構造を持つ酸化グラフェンの開発に成功しました。我々の分析ではエポキシ基以外の酸素官能基を検出することができず、新開発した酸化グラフェンはほぼ単一な酸素官能基から構成されている可能性が高いことがわかりました。また、X線回折、透過型電子顕微鏡を用いた分析から、構造が長期にわたり均一であることも示されました。本研究で開発した酸化グラフェンを用いることで、これまでの未踏領域が明らかになることを期待しています。

シリケートナノシートの開発

Chem. Commun. 2021, 57, 6304.
シリケートナノシートは、豊富に存在する元素を利用した持続可能な材料として、また、さまざまな機能をもつ多機能材料として工業触媒、吸着剤等の原料として利用が期待されています。本研究では、RUB18と呼ばれる層状ポリケイ酸塩を効果的に剥離する手法を開発し、シリケートナノシートの分散溶液を得ることに成功しました。また、本ナノシートを精度よく積層させることで、透明なシリケートナノシートの自立膜を得ることにも成功しました。さらに、この自立膜は燃料電池のプロトン(水素イオン)伝導膜として機能するなど、様々な機能性を有することを見出しました。本材料が持続可能社会の実現に貢献することを期待しています。

光触媒を用いた水素生成反応におけるヒドリド中間体の安定化機構の解明

Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 9073.
半導体光触媒を用いた水素生成反応は助触媒をドープすることで飛躍的に向上することはよく知られています。しかし、助触媒上での反応機構については、多くの推論が出されている中で結論がまだ出ておりません。本研究では、TiO2ナノシートにRhをドープすることでTiO2格子内に作製したRh単原子触媒サイトを利用することで、助触媒上での水素生成経路について議論しています。Rhサイトに吸着したヒドリド中間体を実験的に観察し、その結果は理論計算から算出される結果と一致していました。この反応経路での助触媒の役割は、光励起された電子の引き抜きによるヒドリド中間体の安定化であると結論付けられます。酸素欠陥はそれらの励起電子引き抜きとヒドリド中間体の安定化を促進する役割を担うこととなります。