このページは物質環境化学科3年生向けです

キーワードその1「触媒」

Q そもそも触媒って何?

 触媒とは?ある大先生のたとえ話。

ケースA:ある夕暮れ時の公園の池のほとり、今日初めて一緒に映画に行ったアベックがやってきました。しかし、辺りには腰かけて話をするようなベンチは見当たらず、日も暮れそうなのでしかたなく二人は帰ってしまいました。

ケースB:ある夕暮れ時の公園の池のほとり、アベックがやってきました。近くにあったベンチに腰かけて二人は沈みゆく秋の夕日を眺めながら時間をわすれて楽しそうにすごしました。

ケースBの場合のベンチこそが触媒の働きなのです。反応物質と反応物質を結びつけ化学反応を促進する技ありのコーディネータ。化学工業のキーテクノロジー。そのくせ、無理難題一挙解決後は「あっしにはかかわりのないことでござんす」と化学反応に見かけ上でしゃばらない、まさに化学の木枯し紋次郎的存在...。環境浄化とエネルギー製造においても中核をなす新触媒を開発する。それがわれわれの研究の目標です。

Q ふーん。で、触媒って何?

 触媒にもいろいろあります。うちでやっているのは、無機固体触媒、つまり材料的には無機(主に金属酸化物)です。無機物は耐熱性、耐食性に優れ、長持ちするので環境浄化やエネルギー製造にもってこいの素材です。実用的には下の図にあるようなハニカム(蜂の巣)状の形状のものが使われますが、研究室レベルでは無機化合物の粉体の状態のものを使います。

 

触媒(catalyst)を通すと、触媒無しでは起きない反応も可能になる。触媒は化学反応の名仲介役。右の写真は実物のハニカム触媒。ハニカムの壁の厚みは1mm以下、1平方インチに200個以上のガス流路がありまあす。セラミックス粉末の触媒をこのように精密に成型するのも重要な技術です。

 

 例えば、この触媒の片側から窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)が含まれる排ガスを流すとあーら不思議出口からは窒素(N2)と水(H2O)と二酸化炭素(CO2)になってしまう。これが自動車排ガスを浄化している基本原理です。でも自動車に限らず排ガス規制はどんどん厳しくなるので、それに対応すべく高性能な触媒技術の開発が常に求められているんです。エネルギー製造でもしかり。いかに効率良く燃料を作り出すかは触媒技術に課せられた重要な課題なんですよ。自分が開発した触媒が世の中で使われて役に立つ思うとゾクゾクするよ。でしょ?

Q まあね。で、どんな研究するの?

OK。アバウトにいうと研究のステップは次の通り。

STEP1:まず、大事なのが触媒のデザイン。目的の化学反応に対して、どうすれば高性能な触媒がつくれるか?これには化学の中でも、無機化学、無機材料化学、そして物理化学が最も必要になる。結晶構造、表面構造、酸化還元性、酸塩基性、配位化学、光触媒ならさらに半導体特性、光学特性、電子構造などなどについての知識を総動員して、触媒の化学組成と構造を決めます。

STEP2:次に大事なのが、触媒調製(合成)。固体触媒はその表面で化学反応が起こるので、表面積を大きくしないといけない。うちのグループでは、大きいものは1グラム当たり1000m2もの表面積を持つものも合成できます。つまり十億分の1メートルレベルの超微粒子だとか十億分の1〜百万分の1メートルレベルの孔をもつ多孔体を合成できるのです。こうなると分子レベルで原料の反応を制御しなければならないことが分かりますね。うちでは溶液状態の原料から沈殿、ゲル化、錯体生成などいろんな反応ルートで新しい触媒調製の開拓も行っているんです。

STEP3:苦労して自分のデザインした触媒が合成できたら、いよいよ性能評価。触媒反応を行います。その前に反応装置は全て自作です。複雑な配管やバルブ制御を自分でやると、市販されてないものは設計図を描いて製作。反応物の分析装置を接続。分析データをコンピュータで読み取る。これらの経験が将来向上や研究所で従事する際に大変役立ちます。あるものを買うんでなく、自分でつくるが化学者の基本です。で、やっとこさ触媒反応。自分のデザインが見事に当たったらバンザイ!はずれてもへこたれず次の手を打つ。研究は失敗の連続。ほんの少し差し込む光をたよりに忍耐、忍耐の連続です。

STEP4:じつはここからがたいへん。触媒性能がデザイン通りならば、その根拠を立証して、さらに良いものをつくるためにどうすればよいかを考える。デザイン通りに行かなかったら、何がまずかったのか考えて次の手を打つ。いずれも触媒の特性を徹底的に調べる「キャラクタリゼーション」という分析・解析作業に入ります。これには前にあげた結晶構造、表面構造、電子構造...etcが含まれます(研究室、機器分析センター、地域共同研究センターなどの大型装置を利用)。そして、その結果をもとにさらに高性能化をはかるための研究を展開するわけです。

STEP5:以上の研究が一段落すれば、論文としてまとめ学会や国際雑誌に発表します。もちろん、ここに行き着くまでは、町田と何度もディスカッションを重ね、実験を重ね、解析を重ねた人のみが到達できるわけ。卒論や修論は自分が卒業修了するのに必要な論文ですが、学会発表、論文作成は自分の一生懸命やった仕事の成果を自分で世界に向けて発信する大切なプロセスなのです。大学院生については自分で開発した触媒については学生自身で学会発表するのを基本とします。学会発表での議論を通して初めて研究の評価が分かり、研究の醍醐味も倍増するものです。はたしてどんな反響があるか?ドキドキ

STEP6:成果を発表した後、企業から実用化に向けた共同研究の申込みがあれば、直ちにプロジェクトを開始します。といっても実用化には次々にハードルを超えなくては成らないという厳しい道のりが続きます。企業との共同研究を通じてさらに多くの経験を積めば、将来に向けて大きく飛躍できるというものです。