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國武雅司先生の研究がプレスリリースされました!

世界初、両連続相マイクロエマルションを用いた革新的な隔膜フリーレドックスフロー電池を開発-定置型大容量二次電池、ペア電解合成への応用に期待-

【ポイント】

  • 非水電解質溶媒系を油相とする両連続相マイクロエマルション(BME)の形成条件を世界で初めて発見し、スポンジ状に3次元に拡張された非混和性電解質溶液間界面(ITIES)の構築に成功しました。
  • 3次元に拡張されたITIESを用いた革新的なレドックスフロー電池の開発に成功しました。
  • 3層液体からなる隔膜フリーなレドックスフロー電池を構築・実証し、アノード側とカソード側を異なる液相に分離した電気化学が可能であることを明らかにしました。
  • 定置型大容量二次電池の開発のみならず、グリーンケミストリーとして期待されるペア電解合成(paired electrolysis)などへの応用が期待されます。

【概要説明】

熊本大学産業ナノマテリアル研究所の國武雅司教授、国立研究開発法人産業技術総合研究所の大平昭博研究グループ長、加藤大研究グループ長、埼玉工業大学の丹羽修教授らの研究グループは、非混和性電解質溶液間界面(ITIES)*1を持つ両連続相マイクロエマルション(BME)*2を用いた革新的な隔膜フリーなレドックスフロー電池(RFB)*3の開発に成功しました。この成果は、世界で初めて、非水電解質溶媒系を油相とする両連続相マイクロエマルション(BME)の形成条件の発見により達成されました。これにより、従来の2次元的な液液界面を越え、スポンジ状に3次元に拡張されたITIESの構築が可能になりました。
この3次元ITIESを組み込んだ新しい二次電池では、水系と非水溶媒系の2つの電解質溶液がBMEを介してシームレスに繋がった3層液体から出来ており、2つの電極はそれぞれ異なる液相に設置することで、それぞれの電極上での電気化学反応が切り離されています。通常、充電時にそれぞれの電極で生成した電解生成物間のクロスオーバー(自己放電)を防ぐために、高機能な隔膜を必要とします。この隔膜の代わりとして、中間液層(3次元的に拡張されたITIESを有するBME)は、効率的な液液界面イオン輸送を担いつつ、高いクロスオーバー抑制効果を示すことが明らかになりました。
この研究は、低コストな定置型大容量二次電池の開発だけでなく、環境に配慮したグリーンケミストリーとして期待されるペア電解合成(paired electrolysis)*4などへの応用が期待されます。
本研究成果は、令和5年3月15日、界面コロイド化学分野で最も権威の高い科学雑誌「Journal of Colloid and Interface Science」にオンライン掲載されました。
なお、本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(研究課題/領域番号:17H05378及び18K03910)及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が実施する「ムーンショット型研究開発事業」(JPNP18016)の支援を受けて行われました。

【今後の展開】

この研究は、低コストな定置型大容量二次電池の開発につながるだけでなく、環境に配慮したグリーンケミストリーとして期待されるペア電解合成(paired electrolysis)*4などへの応用が期待されます。

【用語解説】

*1非混和性電解質溶液間界面(ITIES)
溶け合わない2つの電解質溶液の界面のことで、このITIESを跨いだ電気化学は液液界面の電気化学として、液液界面のイオン移動を利用した分子認識及びセンシングなどの分野で応用されている。

*2両連続相マイクロエマルション(Bicontinuous Microemulsion/BME)
お互いに混和しない水と油が界面活性剤によって生じた巨視的に混ざり合った平衡状態がマイクロエマルションであり、O/W(Oil in Water)やW/O(Water in Oil)のような一方の液相に他方の液相が液滴として取り込まれた海島構造が一般的である。これに対し、BMEは、水と油が両連続構造(スポンジ状構造)を示す興味深い溶液相であり、平衡系(熱力学的安定状態)において、界面活性剤の親水性と親油性(HLB)が釣り合い油水界面の界面張力がほぼゼロとなる時に生じる。界面活性剤の親水性と親油性がバランスすると、どちらの液相も閉じていない両連続なBME相が構築される条件がある。BMEは、石油高次回収や化粧品及び分析など様々な分野で利用されている。

*3レドックスフロー電池(Redox Flow Battery/RFB)
二次電池の一種で、酸化還元物質を含む溶液(電解液)をポンプ循環させることで充電と放電を行う。リチウムイオン電池(LiB)と異なり、セル(出力部分)とタンク(容量部分)が独立しており、エネルギー密度が低く小型化には適していないが、原理的にサイクル寿命が極めて長く、常温作動で安全性が高く、タンクサイズを大きくすることで容易に大容量化できるという特徴を持っている。このように比較的単純で安全性も高い構造であることから大型化に適するため、風力・太陽光などの自然エネルギーを用いた発電と組み合わせた大規模電力貯蔵設備として期待されている。
電解液にバナジウムイオンを用いたシステムがすでに一部実用化されているが、バナジウムは資源偏在性が高く、価格高騰と電池需要の増大により供給に不安を抱えており、代替材料の開発、コストの低減化の研究が進んでいる。また、セルを構成する隔膜は、カソードとアノードの電解液の混合を防ぎ、電気的中性を保つ役割を担っているが、高価なフッ素系材料が用いられており、将来の環境面での懸念もあることから、代替材料の開発が進められている。

*4Paired electrolysis(ペアード電解)
2つの電解槽を使用する電気化学反応の方法で、一方の電解槽で化学物質を酸化し、他方の電解槽で同時に還元反応する。両極でそれぞれ有用物を電解合成できるため、エネルギーを効率的に利用することができ、グリーンケミストリー技術として期待されている。両極で反応が起こる適切な電極間電位の設定、生成物間クロスオーバー反応の抑制及び両生成物の分離などの考慮が必要である。

【論文情報】

論文名:Electrochemistry in bicontinuous microemulsions derived from two immiscible electrolyte solutions for a membrane-free redox flow battery
著者:Kodai Nakao, Koji Noda, Hinako Hashimoto, Mayuki Nakagawa, Taisei Nishimi, Akihiro Ohira, Yukari Sato, Dai Kato, Tomoyuki Kamata, Osamu Niwa, and Masashi Kunitake
掲載誌:Journal of Colloid and Interface Science
doi:10.1016/j.jcis.2023.03.060
URL:https://doi.org/10.1016/j.jcis.2023.03.060