[prev.page][first page][last page][next page]

3.超臨界流体による排水・廃棄物処理技術

 超臨界流体を利用した技術には超臨界流体を分離溶媒として使う抽出法、加水分解・熱分解などの反応媒体として使う方法、酸素・過酸化水素などの酸化剤を添加して酸化反応を行う方法がある。

(1)排水中の汚染物質の抽出除去

 高濃度の汚染物質については蒸留、焼却、抽出により、低濃度では吸着、生物処理、エアーストリッピングなどにより処理されているが、いずれも2次的に発生する排水、排気、吸着剤、汚泥の処理の問題がある。超臨界流体による抽出は、図1に示すようなプロセスで処理される5)。汚染水は抽出塔で超臨界流体と向流抽出され、減圧あるいは昇温することで汚染物質が流体から分離される。流体は循環して使われ、系外に出るのは水中に溶解したわずかな分だけであり、二酸化炭素を流体として用いれば、溶媒が系外に出ても処理する必要はない。汚染物質の超臨界流体への溶解度が小さい場合はエントレーナを用いることで改善できる。超臨界流体に解け、水に溶けない無極性有機溶媒などの物質がエントレーナとして利用でき、超臨界二酸化炭素による水中のフェノールの抽出においてはベンゼンが有効であることが報告されている5)

(2)土壌中の汚染物質の抽出除去

 一方、汚染された土壌の処理に対しても超臨界流体抽出が検討されてきており、超臨界二酸化炭素や超臨界エチレンなどで土壌中のPCBやDDT、フェノールが短時間に抽出除去できる5)

(3)排水中の汚染物質の分解除去

 超臨界水中での酸化反応により有機物を分解することにより廃水を処理するプロセスは米国のMODAR社が基本特許を有しており、そのプロセスの一例の概略を図2に示す6,7)。プロセスは原料供給部、反応器、無機塩分離器、冷却・熱回収部、タービンなどからなる。廃水・汚泥などの原料は超臨界水の一部と混合されるため、瞬時に超臨界状態を形成し、チャーの生成を防ぐことができる。酸素は超臨界状態の原料中と接触するため、酸素と廃水は均一相となる。反応後の処理水の一部はリサイクルし、残りはタービンを駆動する。

 超臨界水中では酸素が反応物と均一相に存在するうえに、酸化反応速度が非常に大きいため短い滞留時間でほぼ完全に有機物は二酸化炭素と水に分解される。無機物は超臨界水中で溶解度が非常に小さくなるため固体として塩が析出し、無機塩分離器で系外に除去される。

 MODARプロセスの特徴は1)有機化合物や窒素化合物が99.99%以上の分解率で二酸化炭素、水、窒素、無機塩に転換される。2)塩類や金属などの無機物は固体として分離回収される。その他に系外に排出される物質はCO2、O2、N2と水である。3)1−2%の有機物濃度があれば自己の酸化熱で温度が維持され、さらに高濃度であればエネルギーを回収できる。4)移動可能な装置としてシステムを設計することもできる6)

 一方、廃水中の金属を超臨界水中で加水分解し、金属の群分離・回収する方法が検討されている。これは金属イオンの加水分解速度、金属酸化物の生成速度が金属種により異なることを利用したもので、放射性廃液からの有価金属の回収への応用が考えられる8)

(4)下水汚泥および産業廃棄物の処理

 通常、汚泥は脱水後、埋め立てや、焼却、海洋投棄されている。埋め立てや海洋投棄は長期的視野からは削減されるべき処理法であり、焼却は膨大なエネルギーを必要とする。そこで、これらに代わる方法として汚泥の油化や熱分解、湿式酸化、超臨界水酸化による処理が検討されている9)。それぞれの処理法の特徴を表3に比較した10,11)。油化と熱分解は還元雰囲気で反応させ、生成物として低分子油状物質が得られるのに対して、直接燃焼法や湿式酸化法、超臨界水酸化法は酸素あるいは空気の存在下の酸化雰囲気での反応であり、最終生成物は主に二酸化炭素である。

 通常の湿式酸化は臨界点以下の温度で行われ、蒸気圧以上の圧力で操作されるため液相で反応が起こり、反応時間は15-200分であるが、分解率に限界(75-90%)があり低級カルボン酸やアルコールなどの残存の問題があるのに対して、操作条件を水の臨界点以上で行う超臨界水酸化法では種々の有機物の反応が数秒から数分で完結するため、難分解物質、有害物質の分解に適している3,4)

 超臨界水酸化の汚泥への適用はテキサス大学のGloynaら12-16)によって進められてきている。酸化剤として酸素を用いた場合、20分の滞留時間で、TCOD除去率は300℃で84%、425℃で99.8%であり、超臨界状態では有機物はほぼ完全に分解でき、汚泥の分解過程で生成する酢酸とアンモニアが難分解性の中間体であることを示した。また、酸化剤が酸素と過酸化水素の場合の比較を2,4-ジクロロフェノールと酢酸の酸化反応について検討しており、表4にその一例を示すように、酸素に比べて過酸化水素を用いた場合は飛躍的に分解効率が上がっている。特に、比較的低い温度においてその違いは顕著である。テキサス大学ではEco Waste Technologiesと12000 lb/dayの規模の下水汚泥処理のパイロットプラントを開発している16)

 一方、MODECはドイツに製薬会社の廃水処理プラントを建設し1994年から稼働しており、汚泥も処理可能である16)表5はModellら3)のベンチスケールでのパルプ汚泥の分解結果を示したものである。TOCの分解については99%以上、TOXについては99.9%以上の結果が得られている。

 我々は下水処理場から排出される余剰汚泥を回分反応器中で酸素源として過酸化水素を用いて分解実験を行った10,11)。試料として用いた汚泥は固形分3.49%であり、その成分は元素分析により水素6.04%、炭素38.1%、窒素6.95%であった。その他には主に酸素や灰分などが含まれる。なお、原料汚泥中の炭素含有率は9700 mg/lであった。

 反応前の汚泥は濃緑色の悪臭を放つスラリー状物質であるが、過酸化水素を100%以上加え、臨界温度以上で反応させると無臭で無色透明の液体と沈殿物として得られる固体および気体に分解された。ここで、過酸化水素の添加率は試料中の炭素分が完全に二酸化炭素に変換されるのに必要な酸素量に換算した値を100%としている。

 生成物の液相の全有機炭素量(TOC)を測定した結果、図3に示すように5-10分程度の間にほぼ反応は完結してしまっており、Shanableh & Gloyna13)の結果と同様に酸化反応が迅速に進行することがわかる。以下の実験では反応時間を30分とした。

 図4は過酸化水素の添加率のTOCへの影響を調べたものである。亜臨界条件では十分に反応が進行しないのに対して、超臨界条件では過酸化水素の添加率が50−100%の間で急激にTOCが減少し100%以上添加した場合はTOCは検出感度以下であった。また、温度については高温ほど分解が進行している。

 生成物液相に存在している有機酸を調べた結果、図5に示すように過酸化水素添加率が少ない場合、ギ酸、プロピオン酸、イソ吉草酸、コハク酸なども検出されたが、過酸化水素添加量の増加に伴い、酢酸が大部分を占め、その酢酸量も過酸化水素量が100%以上では検出されなかった。

 分解反応による固体の質量減少について検討した結果、原料中の固体部分の約30%が反応後も固体として残存している。ただし、反応後の固体は原料の汚泥と異なり、固相が容易に沈降するため液体から分離することは容易である。また、固体中の炭素分は1%未満であり、固体はほとんど灰分であると考えられる。

 一方、汚泥中にはタンパク質が40%程度含まれており、窒素原子が最終的にはN2まで酸化されると推測される。しかし、中間体として生成するアンモニアが酢酸とならんで難分解性であると報告されている。図6に示すように汚泥分解におけるアンモニアは酢酸より分解が困難であるが、873Kでは完全に分解されている。

 Liら15)には酢酸とアンモニアを難分解性中間体として、図7に示すような反応経路で酸化分解が進行し、CO2とN2まで分解されるとしている。